リモートワークの普及により、オフィスに縛られない「働く場所の自由度」が拡大する中で、在宅勤務はもちろん、サテライトオフィスやワーケーション先など、多様なワークスペースでの働き方が提案され、社会に浸透しつつあります。
そんなコロナ後の新たな働き方の1つとして「移動中の車の中を執務スペースにする」という新たな可能性を実証しようと取り組んでいるのが、横浜に本社を構える日産自動車とパートナー企業4社が提案する「移動会議室」です。
今回の編集長コラムでは、実際の試乗体験を通じて感じた「移動会議室の可能性」についてお伝えいたします。
車の中でWeb会議ができる「移動会議室」とは?
「移動会議室」は、日産自動車とパートナー企業である大日本印刷、ゼンリン、ソフトバンク、クワハラの4社が、高級ミニバンの後部座席をWeb会議が問題なく行える環境に整えることで、移動しながらの打ち合わせやプレゼンテーションなどをより効果的に実施できることを検証している実証実験です。
第1弾が2021年に実施され、現在はその第2弾となる「有償ハイヤーサービス」として、出発地と到着地が東京都23区域内および神奈川県の横浜市・川崎市・横須賀市となる範囲内で、2022年9月30日まで提供されているサービスです。
電話・メール・Webから予約が可能で、詳しくは下記リンク先のプレスリリースをご覧ください。
どのような乗車体験が待っているかとワクワクしながら、試乗のスタート地点となる横浜のみなとみらいへと向かいました。
エグゼクティブ気分で「移動会議室」に乗車!
今回の試乗取材は、日産自動車グローバル本社の1階ピロティから出発して、みなとみらいや関内エリアを移動しながら、実際に車内でWeb会議やPC作業などを行う形で実施しました。
高級ワンボックスタクシー・ハイヤー事業を展開されている「クワハラ」のドライバーさんが丁寧に迎えてくださり、乗車のサポートと「移動会議室」車内の使い方の説明などをしてくださいます。
使用されている車体は、日産「エルグランド」の「VIP 2列シート」仕様をベースに、運転席などの前席との間に遮音壁が設置されるなどの改造が施されています。
後部座席の片方には、大日本印刷が開発した専用のタブレット型のコミュニケーションツールが設置され、ドライバーさんとの連絡などができるようになっています。
もちろんシートの座り心地は最高で、足元も広くゆったりと作られており、車内では快適に過ごすことができます。
電動リクライニングでシートを倒したり、足元を上げてオットマンのようにゆったり休むこともできます。
着席してまず目を引くのが、運転席との間に設置された32インチの大型モニターと、Polycom社製のカメラ付きサウンドバーです。
今回は、編集部のWindowsパソコンを持ち込みましたが、「移動会議室」との接続は、USB TypeCのケーブル1本だけで、電源供給はもちろん、モニター、カメラ付きサウンドバー、さらにはソフトバンクが提供する5G接続可能なネットワーク回線に有線で接続でき、安定した通信環境を簡単に準備できます。(WiFi接続も可能)
両シートの手元には読書灯が、前方右側にはミニ冷蔵庫があり、冷たいお水もセットしてあるうれしい心遣い。長い移動中に備えて、ご自身で用意した飲み物などを入れて冷やしておくこともできます。
いざ出発!これは新しい!!
車内を確認し、パソコンのセットも完了したので、出発します!
今回の試乗取材では、みなとみらい・馬車道・関内エリアを周回しながら、約2時間ほど「移動会議室」を体験してみました。
走り出して最初に感じたのが「この働き方は新しい!」という感覚。
まるで大型サブモニターを使いながらワークしている自分の仕事部屋がまるごと街を移動しているような不思議な感じです。
この新鮮な違和感を楽しみながら、メールやSlackなどの作業をこなし、大型モニターで先日録画した対談動画をチェックしつつ、ときおり横の窓から見える風景に目をやることで、ワーケーション的な働き方を自動車内で実現できている感覚を体験することができました。
ドライバーさんとのやり取りには、座席の横にあるタブレットを使います。あらかじめプリセットされているメッセージをタッチすると、ドライバーさんがつけているヘッドセットに音声で伝わり、ドライバーさんからのお返事は音声認識されて文字で表示されます。
また「現在地を表示」を押すと、ゼンリンが提供する「ZENRIN Maps API」を使って、現在の位置が住宅地図上に表示される機能も実装されていました。
将来的には、この地図に行きたい場所を入力するとドライバーさんに伝わり、カーナビと連動して到着予定時刻が分かるようになると、さらに便利な移動が実現できそうです。
車内でのWeb会議は新鮮な体験
次に「移動会議室」の最大の特徴である「走りながらのWeb会議」を体験すべく、今回の実証実験を企画・運営されていらっしゃる、日産自動車の吉田さんとクワハラの神村さんに、Zoomでお話しをうかがいました。
編集部:「この『移動会議室』の実証実験に至った経緯を教えてください」
日産・吉田さん:「将来的に、自動運転が実現したときに、移動中の車の中でどのような利用体験が実現されるかを議論する中で、まずは現状の有人運転の段階でもできることにトライしてみようということになりました。
当時はコロナ前でしたが、すでに働き方改革の議論はされており、移動時間を有益な時間に変えるようにという想いから実現を目指しました」
編集部:「どのような方々の利用を想定されていますか?」
日産・吉田さん:「多忙な企業エグゼクティブの利用を想定しています。Web会議などの仕事での利用に加えて、帰宅する車内で大切な家族との会話の時間を持って頂いたり、映画などのエンターテイメントコンテンツをゆったりと楽しんで頂くなどにより、移動時間を「キリングタイム(時間つぶし)からミーニングフルタイム(意義ある時間)に」変えてゆけたらと思っています。」
編集部:「実証実験の利用者さんから、どのようなフィードバックが届いていますか?」
クワハラ・神村さん:「おおむねご好評いただいています。ただ中には、少し車酔いを感じやすくなる方もいらっしゃるようです。また、前方の様子が見たいというお声も頂くことも多く、今後に向けた課題と捉えています。」
日産・吉田さん:「利用者からは「移動中も仕事させる気か」なんて言われることもありますが(笑)。
ただ、多忙でなかなか打ち合わせの時間を設定できないエグゼクティブ層にとって、働き方の1つの選択肢をご提案できているのではと考えています。」
編集部:「確かに、走りながらのWeb会議は車酔いを感じやすいですが、使ううちに徐々に慣れてきた感覚がありました。ただし、プレゼン資料の画面共有などで小さい文字を目で追いながら読む場合や、パソコンでキーボードの入力作業などをしようとすると、かなりの酔いを覚えることもありました。そういった業務を行う際は、車を停車させて集中して行ったほうが無難かもしれませんね。」
お仕事を終えて、プライベートタイムへ!
車内でのオンラインインタビューと原稿メモ書きを終えて、本日のワークはここで終了!
ここからは「車内バケーションタイム」というほどではありませんが、ちょっと失礼して、軽くお酒を飲みながら、契約しているビデオストリーミングサービスを使って、車内で映画を楽しんでみました。
映像の権利の関係で写真は掲載できませんが、ハイボールを飲みながら約30分間、見たかった映画を満喫しました。これは本当に快適な体験で、近い将来、移動中の車をエンターテイメント空間にという各社の取り組みには、確かにニーズがありそうだと体感することができました。
「移動会議室」という新たなワーケーション体験
実は今回の取材は当初、「エグゼクティブがワーケーションに向かう移動手段」をテーマとして企画しました。
しかし、実際に体験した「移動会議室」は、その空間内で「ワーク」と「バケーション」の両方の要素を実現できる「部屋」であり、まるで「走る役員室」または「ワーケーションルーム」のようだと感じました。
最近では、キャンピングカーをベースとした「車内ワークスペース」の提案がいろいろとされていますが、この「移動会議室」は、それらとは異なるラグジュアリーなハイヤーの発展形として実現されていました。
今回の実証実験では、利用料金は「ハイヤー利用」と「車内の設備利用」を含めて「¥20,000~/回(税込み)」と、決して気軽に試せるサービスではありませんが、移動中の車内で過ごす時間を、生産性の高いワークスペースとしつつ、余暇も楽しむことができるプライベート空間として、必要に応じて手配して利用できるという意味で、コロナ後のワーク・ライフスタイルを問う「新たなワーケーション体験」としての可能性を感じました。
ワーケーション専門Webメディアとして、車という移動手段のワークスペース化について、今後の展開に注目してゆきたいと思います。